新帝国主義の時代 英国軍のアジア太平洋地域進出と日露関係

 佐藤優(さとうまさる)氏は随分と前から、リーマンショック以降各国が新帝国主義的転換を遂げていると述べている。旧来のように植民地獲得を求めはしないものの、各国は国家のエゴイズムを露骨に前面に出す「新」帝国主義国になりつつあるという。

 まさしく、いわゆる先進諸国の動向を見てみればその傾向は一目瞭然である。植民地獲得という目的が現代に存在しないため、すぐに侵略を企図した戦争が起きることは少ないが、その代わりに外交、経済、またはサイバー空間において各国はその意図を明確に見せている。

 第二次世界大戦という世界戦争が終結し、核の恐怖を人類が認識し、各国が全面戦争に踏み切るということは無くなった。各地で局地的な戦争が起きたとしても、世界規模で経済的に発展し、緩やかに各国が統合され、もしかしたら本当に地球市民が誕生するのではないかと考えていた人もいるかもしれない。しかし、それは幻想にすぎない。世界的に経済的に苦しい状況に置かれる中、移民問題など現状に不満を持った各国ではナショナリズムが目立ってきた。各国の右派政党が台頭してきている。そんな中、イギリスが国民投票によりEUから離脱するという衝撃的な決定を行ったことは記憶に新しい。

 ここでイギリスについてのニュースをピックアップしておきたい。

www.nikkei.com

jp.reuters.com

 時代が逆行しているという印象を受けない人はいないと思う。南シナ海での航行の自由を守るのが目的というが、中国を念頭においたものであるのは間違いない。

 米国の次期大統領はトランプ氏に決まった。これが覆る可能性は低いだろう。トランプ氏は米国の利益の極大化のためであれば米軍の引き揚げも実際に行うかもしれない。日本から実際に撤退する可能性も無いとは言えない。しかし、アジア太平洋地域は米国にとって今後の戦略的地域である。日本から撤退したとしても、アジア太平洋地域の米軍は強化されるだろう。もちろんこれらは中国を念頭に置いたものである。

 また、トランプ氏はTPPには参加しないと明言している。米国がTPPに参加しないのであればもはや存在意義はない。しかし、日本は一人でTPPに執着し、一国でグローバリゼーションを推進するらしい。

 さて、日本とロシアの今後の関係であるが、なんだかんだ言ってロシアは四島の帰属はロシアであるということを認めさせたいようである。政府は、四島が日本の領土であるというスタンスは絶対に譲ることはできない。もしこれが揺るぐようなことがあれば今までの主張を撤回しなければならなくなり、相当な非難を国内から受けるだろう。難しい情勢であるが、一方で極東地域におけるロシアとの経済的な連携は魅力的である。

www.sankei.com 鉄道によりユーラシア大陸と繋がるとともに、ガスパイプラインによって日本は恩恵を受けることができる。一方でロシア軍のプレゼンスは依然として日本周辺全域に及んでいることを忘れてはならない。

mainichi.jp

www.sankei.com

www.huffingtonpost.jp

www.asahi.com

統合幕僚監部:11/22[公表]ロシア機の東シナ海における飛行について

http://www.mod.go.jp/js/Press/press2016/press_pdf/p20161122_01.pdf

 

 このヘリの飛行事案については、付近に母艦(ロシア軍艦艇)の存在を示している。いきなり南西方面の海域にいきなりヘリコプターが出現することなどない。

 安全保障と経済連携どちらを優先するという議論はありえない。バランスが重要であり、タイミングも重要である。絶対的に譲れない部分はお互いにあると理解した上で現状に見合った外交を目指す必要があるという非常に難しいものである。

 今の日本にとって懸念すべきことは明確な国家戦略が存在しないことである。他国の動向に左右されるばかりで日本独自の戦略が明確化されていない。戦略の基盤となるのは、第一に国力に裏付けされた軍事力である。ここが揺らぎないものでなければ戦略がぶれてしまう。軍事力を強化すべきということではない。軍事力を明確に定義づけ、それをもって日本の姿勢を示すことが必要であるということである。第二に経済力である。アベノミクスが失敗であったことをそろそろ認めなければならない。小手先の経済政策では根本的な問題は解決できない。このままでは破綻は見えている。多くの若者にとって暗い未来しか見えない。

 新帝国主義の時代はすでに始まっており、目には見えない戦争は局地的に起きている。全面的な衝突の前に日本はこの漂流状態から脱却する必要がある。この世界の中で、アジアの中でどのような舵取りをしていくのか。帝国主義の時代はもう忘却の彼方か。忘れてはならないのは歴史は繰り返すということである。